2016年09月14日
斜線を引くことは遺言書の撤回にあたる?
こんにちは。
スマイル相続センターです。
今回も、最近の遺言書にかかわる興味深い判例(最判平成27・11・20)を紹介したいと思います。
事案としては、自筆証書遺言が作成されて、要件も満たしていたけれども、その遺言書の文書全体の左上から右下にかけて赤色のボールペンの斜線が引かれていたというものです。
問題は、このように、ボールペンの斜線が文書全体に引かれることで、民法に規定する「遺言書を故意に破棄したとき」にあたるかどうかが問題となります。「遺言書を故意に破棄したとき」にあたれば、その遺言書は撤回されたものとみなされます。撤回がなされれば、その遺言書は効力を失います。
では、判例はこの問題について、どのような結論を下したのでしょうか。確認しましょう。
「本件のように赤色のボールペンで遺言書の文面全体に斜線を引く行為は,その行為の有する一般的な意味に照らして,その遺言書の全体を不要のものとし,そこに記載された遺言の全ての効力を失わせる意思の表れとみるのが相当であるから」、「本件遺言書に故意に本件斜線を引く行為は,民法1024条前段所定の『故意に遺言書を破棄したとき』に該当するというべきであり、これにより本件遺言を撤回したものとみなされることになる。」
以上のように、判例は、遺言の撤回を認めました。しかし、この判例には異論もあるところです。すなわち、破棄という意味では、物理的な破壊が必要であって、斜線を引いただけでは、文字の判別ができるのであるから、破棄にあたらないのではないかということです。
原審(広島高判平成26・4・25)では、このような立場から斜線を引いただけでは、破棄にあたらないとしていました。これに対して最高裁は、破棄にあたるとしたわけです。
通常の文書であれば、全体に斜線を引いてあることで、その文書の内容を否定ないしは破棄するということは読み取れますが、最高裁の立場のように、方式に厳しい遺言書にも通用させていいのかどうかは難しい問題です。
ただ、いずれにせよ、自分が死亡した後に相続人が遺言書の効力をめぐって争わないためにも、遺言書を破棄したいのか、破棄したくないのか、その意思をはっきりさせておく必要がありそうです。
皆様が笑顔でいられますように。
代表 長岡
ワンポイント
この最高裁判例が出るまでは、斜線や二本線を引いて文字を消してあるように、遺言の文意が判別できる場合の扱いについて、通説では、破棄ではなく、遺言書の加除変更の問題として扱い、民法の方式(968条2項等)に基づかない限り、元の文字が効力を持つとされていました(二宮周平『家族法 第4版』393頁)。