2016年12月13日

「枕営業」は不貞行為に当たらない?


こんにちは。


スマイル相続センターです。


今回は、相続とは関係はありませんが、特徴的な地裁判決を紹介したいと思います(東京地判平26・4・14)。


事案としては、原告が、クラブのいわゆるママである女性を被告として、本件クラブの顧客であった原告の夫との間で7年余りにわたる継続的な不貞行為をしたこと等によって甚大な精神的苦痛を被ったなどの主張をして、不法行為に基づき、慰謝料等の支払を求めたというものです。


まず、この不貞行為の定義について、判例は、配偶者のある者が自由意思に基づいて配偶者以外の者と性的関係を結ぶことをいい、相手方の自由意思に基づくものであるかは問わないとしています(最判昭48・11・15)。
そして、不貞行為を行うことは、不法行為として損害賠償請求の対象となります。


さて、この不貞行為の定義を前提とした上で、上記東京地裁判決はなんと述べたでしょうか。確認してみましょう。


「第三者が一方配偶者と肉体関係を持つことが他方配偶者に対する不法行為を構成するのは,原告も主張するとおり,当該不貞行為が他方配偶者に対する婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益に対する侵害行為に該当することによるものであり,ソープランドに勤務する女性のような売春婦が対価を得て妻のある顧客と性交渉を行った場合には,当該性交渉は当該顧客の性欲処理に商売として応じたに過ぎず,何ら婚姻共同生活の平和を害するものではないから,たとえそれが長年にわたり頻回に行われ,そのことを知った妻が不快感や嫌悪感を抱いて精神的苦痛を受けたとしても,当該妻に対する関係で,不法行為を構成するものではないと解される…。」


まず、この時点で疑問が湧くと思いますが、なぜか判決ではソープランドで性交渉を行った場合には、婚姻共同生活の平和を害するものではなく、妻が精神的苦痛を受ける可能性を認めておきながら、不法行為にはならない(=不貞行為ではない)としています。そして、続いて以下のように述べます。


「ところで,クラブのママやホステスが,自分を目当てとして定期的にクラブに通ってくれる優良顧客や,クラブが義務付けている同伴出勤に付き合ってくれる顧客を確保するために,様々な営業活動を行っており,その中には,顧客の明示的又は黙示的な要求に応じるなどして,当該顧客と性交渉をする『枕営業』と呼ばれる営業活動を行う者も少なからずいることは公知の事実である。」
「このような『枕営業』の場合には,ソープランドに勤務する女性の場合のように,性行為への直接的な対価が支払われるものでないことや,ソープランドに勤務する女性が顧客の選り好みをすることができないのに対して,クラブのママやホステスが『枕営業』をする顧客を自分の意思で選択することができることは原告主張のとおりである。しかしながら,前者については,『枕営業』の相手方となった顧客がクラブに通って,クラブに代金を支払う中から間接的に『枕営業』の対価が支払われているものであって,ソープランドに勤務する女性との違いは,対価が直接的なものであるか,間接的なものであるかの差に過ぎない。また,後者については,ソープランドとは異なる形態での売春においては,例えば,出会い系サイトを用いた売春や,いわゆるデートクラブなどのように,売春婦が性交渉に応ずる顧客を選択することができる形態のものもあるから,この点も,『枕営業』を売春と別異に扱う理由とはなり得ない。」


枕営業をよく行っているというのは公知の事実※1とまで言い切ってしまいました。そして、クラブで代金を支払うことは、「枕営業」の対価を支払っているのであって、ソープランドとの違いも直接的な対価があるかないかに過ぎないとしています。
クラブの代金に枕営業の対価が間接的に入っているとは、初めて聞きました。枕営業は公知の事実とまで言っていますし、この裁判官の考えではクラブに勤める女性はみんな枕営業をするものだと思っているのでしょうか。
では、最後に結論を確認してみましょう。


「そうすると,クラブのママないしホステスが,顧客と性交渉を反復・継続したとしても,それが「枕営業」であると認められる場合には,売春婦の場合と同様に,顧客の性欲処理に商売として応じたに過ぎず,何ら婚姻共同生活の平和を害するものではないから,そのことを知った妻が精神的苦痛を受けたとしても,当該妻に対する関係で,不法行為を構成するものではないと解するのが相当である」


さて、ここでソープランドは婚姻生活の平和を脅かすものではないという、初めの方で言及した部分が重要となってきます。ソープランド≒枕営業なんだから、枕営業も婚姻生活の平和を脅かすものではないという論理です。
しかし、先に挙げた最高裁の不貞行為の定義からすれば、まさに今回の事例は不貞行為に当たると考えられます。


結局、被告と原告の夫の仲は「枕営業」であるとして、原告は敗訴してしまい、控訴しなかったので、判決が確定してしまいました※2。ぜひとも高裁・最高裁の判断を確認したかったところです。
判決の考えを認めてしまうと、枕営業を隠れ蓑に、堂々と浮気ができてしまうことになりかねないので、非常に問題があると思うのですが、皆様はどうお考えになるでしょうか。


代表 長岡



※1公知の事実は、簡単に言うと、みんなが知っている事実で、裁判所も知っている事実です。この公知の事実は、証明が不要となります(通常、事実を認定する時は、訴訟の当事者からの主張・立証が必要です)。
※2ただし、この判決は、原告の主張もあまり筋のいいものではない気がします。原告は、なぜかソープランドの場合を挙げて、枕営業と比較検討していますが、する必要のない検討ですし、しかもソープランドの場合は不貞行為に該当しないとしていますが、これも先に挙げた最高裁の考えからすると、おかしな立論です。

ワンポイント

参考HP:小松亀一法律事務所「いわゆる”枕営業”は不法行為を構成しないとした東京地裁判決全文紹介」から、判決文を引用させていただきました。 http://www.trkm.co.jp/danjyo/15072101.htm

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