2017年01月17日

預貯金は遺産分割の対象となる?

こんにちは。


スマイル相続センターです。


今回は、預貯金の相続に関する重要判例(最決平成28・12・19)が出されたので、この判例についてご説明したいと思います。


従来の判例では、預貯金の相続に関しては、当然に相続人の割合に応じて分割され、遺産分割の対象とはならないとされてきました(最判平成16・4・20等)。もちろん、相続人全員の合意があれば、遺産分割の対象とすることも可能ですが、相続人間で合意ができなければ、法定相続分に従い当然に相続されることになります。


すると、どのような不都合が起きるでしょうか。平成28年決定の事例に沿って考えてみましょう。


【事例】
被相続人であるAさんが亡くなったところ、その相続人は、XさんとYさんがいました。Aさんの生前、Yさんの母親であるBさんは約5500万円の贈与を受けており、これはYさんの特別受益(遺産分割の際の相続分の算定にあたって考慮される金額と思ってください。特別受益があるのに、通常の相続分通りに相続させると、相続人間で不公平が出るので、この特別受益を考慮します)にあたるものです。
そして、Aさんは相続財産として、約4000万円の預貯金と約250万円の不動産を有していました。
Xさんは預貯金を遺産分割の対象に含めて具体的相続分を計算することを求めましたが、Xさんのこの主張は認められるでしょうか。


まず、不動産については、遺産分割の対象となるので、XとYの話し合いでどちらが相続するかを決めることができるのですが、預貯金に関しては、従来の判例からすれば、当然に相続されるので、XさんとYさんに2000万円ずつ相続されます。
すると、Yさんは7500万円もの財産を得たのに対し、Xさんは、2000万円のみであり、仮に不動産を単独相続したとしても、2250万円で両者の差は大きいものとなります。


では、4000万円の預貯金を遺産分割の対象となる財産に含まれるとするとどうなるでしょう。この場合、特別受益も考慮されますので、遺産分割の対象とならない場合と比べて、相対的にXさんのもらえる額が増えることになります。
特別受益を組み入れて計算した場合Yさんの相続分は以下のようになります。


(相続開始時の財産+生前贈与)×相続分―生前贈与又は遺贈
=((4000万円+250万円)+5500万円)×2分の1-5500万円
=-625万円
マイナスになった部分については、返還する義務を負いませんが、もらえる部分が0円であるということと同一なので、Yさんのもらえる相続財産はありません。
一方Xさんは、預貯金4000万円と不動産250万円をすべて相続することができますので、4250万円分相続することになります。
預貯金が遺産分割の対象とならなかった場合は、多くても2250万円ですから、その違いの大きさがわかりますね。


さて、従来の判例では、遺産分割の対象とならなかった預貯金についても、その対象とするよう求めたXさんの主張に対して、平成28年決定ではどのような結論を下したでしょうか。確認してみましょう。


判例は、遺産分割審判等の手続内容から、「遺産分割の仕組みは、被相続人の権利義務の承継に当たり共同相続人間の実質的公平を図ることを旨とするものであることから、一般的には、遺産分割においては被相続人の財産をできる限り幅広く対象とすることが望ましく、また、遺産分割手続を行う実務上の観点からは、現金のように、評価についての不確定要素が少なく、具体的な遺産分割の方法を定めるに当たっての調整に資する財産を遺産分割の対象とすることに対する要請も広く存在することがうかがわれる」とし、預貯金が遺産分割の対象となる現金と比べて、それほどの差があることを意識しないし、実務においても遺産分割手続の当事者の同意を得て預貯金債権を遺産分割の対象とするという運用が広く行われているとします。
その上で、具体的に普通預貯金の場合と定期預金の場合に分けて検討し、従来の判例を変更して、両者ともに遺産分割の対象となるとしました。
したがって、Xさんの主張が認められたわけです。


この判例の考えは、実務の慣行からしても、妥当な判決といえるのではないでしょうか。
ただ、被相続人の扶養を受けていた者の生活費を、遺産分割が完了するまでは引き出せないのではないかという問題もあります。
もっとも、この点に関して、大谷判事らの補足意見で、特定の共同相続人の急迫の危険を防止するために、相続財産中の特定の預貯金債権を当該共同相続人に仮に取得させる仮処分等を活用すべきであるとしていますので、実務でもこのような手段を講じるのではないでしょうか。


皆様が笑顔でいられますように。


代表 長岡

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