2016年10月12日

遺言書の内容に反した遺産分割協議

〔事例〕
Aには妻B、子C、Dがいました。Aには、財産として、家屋用の土地及びその土地上の家屋に加え、2000万円を持っていましたが、子のCを溺愛していたため、子のCに全額を相続させる旨の自筆証書遺言を作成し、遺言執行者(遺言の内容を実現するために、法律行為や事実行為を行う者)として行政書士のEを選任しました。10年後、Aは病気で亡くなったため、相続が開始されることになりました。
Eは、上記の遺言書どおり、CにAのすべての遺産を相続させるための手続を執るつもりでしたが、Cから話を聞くと、Cとしては、「すべての財産を相続するつもり全くなく、母であるBの住む場所を確保するため、土地と家屋をBが相続してもらい、2000万円については、CとDで半分ずつわけるつもりだ」とのことでした。Eは、このCの意向をBとDに話すと、BもDもCの意向に異存はないとのことでした。
この場合でも、Eは、Aの遺言書の内容を尊重し、Cにすべて相続させなければならないのでしょうか。


こんにちは。


スマイル相続センターです。


今回は、遺言書の内容に反した遺産分割協議が行われた場合のお話をしたいと思います。


事例を見てどう思ったでしょうか。遺言書は、故人の最後の意思でもありますから、最大限尊重すべきものではあります。しかし、そうはいっても、遺産を相続する現に生きている者の意思もまた、尊重されるべきはずです。


この両者の折り合いをどうつけるかは難しい問題ですが、まだ最高裁での統一した見解はありません。


下級審判例としては、遺言書の内容に反した遺産分割協議を無効とするもの(大阪地判平6・11・7)もありますが、様々な法律構成により、遺産分割協議を有効にするものが数多くあります(東京高判平11・2・17、東京地判平13・6・28など)。


このような判例の傾向を見ていると、やはり、現に生きている者の意思を尊重することの方が重視されるべきということでしょう。遺産をどう使うかは、相続人の自由な意思によって決められることだと思いますので、あえて遺言執行者がそれに口を出すのも妥当ではないのかもしれませんね。


したがって、事例においても、Eは、遺言書の内容どおりに、Cに相続させなくても、B、C、D間の遺産分割協議を優先させることが、相続人が満足するのであれば、それでよいのかと思います。


前述した、東京地裁平成13年判例も、遺言執行者による遺産分割協議の無効確認の訴えを否定しています。遺言執行者は、遺産分割協議を認めるしかないわけですね。


以上、難しいお話ですが、いかがでしたでしょうか。


皆様が笑顔でいられますように。


代表 長岡

ワンポイント

今回のお話は、遺言執行者が選任されている場合のお話です。遺言執行者が選任されていないなければ、遺言書の内容に反する遺産分割協議がなされても、相続人が、遺産分割協議に納得ずくならば、「それはおかしい!」と文句をつける人がいませんからね。なお、遺言書で第三者に遺贈がなされ、受遺者がいる場合には、その受遺者は遺贈を受ける権利がありますので、ご注意ください。 参考文献:二宮周平『家族法 第4版』(新世社)

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